その言葉の意味を瞬時に理解するのは難しかった。
いや、意味はわかるが、事実としてうまく飲み込めなかったと言った方がいいか。

よく知る人の訃報を聞いた時のように。

何の前触れもなくカーラジオから聞こえてきた言葉だった。
さっきまで陽気にトークしていた男性のラジオDJが、急にかしこまって語り出したんだ。
「たった今入った情報」として、言い間違いのないようにゆっくりと。

「明日開催予定だったライジングサンロックフェスティバルが、台風10号の影響で中止、となりました。」

「中止」の後の句読点が、一旦区切ったその間が、事の重大さを物語っていた。
その後に「命を大切にしてください。直ちに避難してください」と続いてもまったく違和感のない深刻なトーンだった。

聞く人によっては、そこまで深刻な事態ではない。まったくない。

音楽フェスに興味がない人にとっては、数ある夏のイベントの一つが台風の影響で中止になっただけだ。よくあることだろう。

しかし、RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO(以下ライジング)を「数ある夏のイベントの一つ」と思えない人たちがいる。
ライジングを愛して止まない人たちだ。

オレです。

ライジングは毎年8月に、北海道は小樽市の石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージで開催される野外音楽フェスだ。1999年に第1回が開催されて、今年2019年で第21回目を迎えた。
ちなみにオレは第1回からすべて参加している。バカでしょ?(笑)

台風が迫っていることはもちろん知っていたが、中止になるとは夢にも思っていなかった。
だって過去20年間、一度も中止になったことなんてないんだから。

だから不意にカーラジオから聞こえてきた「中止」の言葉に、ショックのあまり咄嗟に反応できなかった。「え?!」と言うのがやっとだった。
同窓会で思わぬ人から「昔好きでした」と言われた時のように(そんな経験はない)

そんなオレも大概だが、同じように、いや、それ以上にライジングを愛して止まない人たちは多い。そんな人たちが年々増えているのか、ここ数年、入場チケットもソールドアウト状態が続いている。

もちろん「ライジングを愛して止まない」にもレベルはある。

お盆時期のクッソ高い交通費もなんのその、本州は元より九州四国方面、全国各地から集まってくる人。
お盆時期に確実に有給が取れる会社に転職した人。
イベントが終わった次の日から「次の開催まであと365日」とカウントダウンを始める人。
入場券代わりのリストバンドをしばらく外すことができない人。
会場跡地(イベントが終わると、すっかり何もない野っぱらになる)に行って「ここにサンステージ(メインステージ)があったのか」と思いにふける人。
オレみたいに何がなんでも参加し続ける人。

音楽フェスに興味がない人には理解できない異常行動だ。たかが音楽フェスに、と思うことだろう。そう思うことに異論はない(笑)

何がオレたちをそうさせるのか。
「楽しいから」としか言えない。何がそんなに楽しいのかをここで説明しても意味がない。
楽しくない人にとっては楽しくないからだ。
現に過去ライジングに参加して「もういいわ」って二度と参加しなくなった人は大勢いる。例えば「疲れるから」といった理由で。それはわかる。だって疲れるから(笑)
人それぞれ、いろんな価値観を持っているのだから、それはいい。

ただ、異常なほどに「ライジングを愛して止まない」人たちがいることを知ってほしい。いや、知ったところで何もいいことはないが。

どうなるのかな、と思った。
今回の中止を受けて「ライジングを愛して止まない」人たちはどうなるのかな、と思った。

意外なことに、そのことを嘆き悲しむ人は少なかったように思う。少なくともオレの周りでは。いや、SNSの中も似たような雰囲気だったから全体的にそうだったと思う。

それどころか、みんなけっこう楽しんでいるんじゃないか?そう思えなくもなかった。

あるものは、ススキノに飲みに行って憂さ晴らしをしていた(オレも)
そして、そんな人たちがススキノの路上に集まって、出演するはずだったバンドの曲を大合唱した(オレにそこまでの元気はない)
あるいは、カラオケでそんな曲を次から次へと歌うものもいた。
道外組はスシ、ラーメン、スープカレーを堪能していた。

もちろん、中止を知った瞬間はショックだったと誰もが言った。しかし、割とすぐ中止を受け入れられた人が多かったようだ。
だって中止になった原因は台風だ。行ってみれば相手は地球だ。いや宇宙だ。
人間はあまりに無力だ。宇宙相手にどうすることもできない。

しゃーねーな。そう思うしかなかった。

無力は時に救いになるのかもしれない。そう思った。
そしてもう一つ、中止を受け入れやすかった理由が考えられる。

ライジングはここ2年、ずーっと雨の開催だったんだ。けっこう強めの。地面はドロドロな。
そして今年。

雨の開催はもういいよ。

そんな気持ちがあったのかもしれない。だから台風の中、強い雨風の中で開催するなら中止でもいいかな。そんな気持ちも少なからずあったように思う。オレだけかもしれないが。
雨も嫌だし、強風の中でテント張るのも嫌だな、って。

いやいや、完全に中止になりそうだったら、そんな悠長なことは言ってられないよ。
ライジングは金、土曜日の二日間開催される。正確に言えば土曜日はオールナイト開催で、日にちが変わって日曜の朝まで、日の出の時間まで開催されている。
そう、それがライジングサン、だ。

そのすべてが中止になったら、かなりショックを受けたと思う。
ただ、天気予報を見ると、金曜の夜中に台風は過ぎ去ってくれそうで、二日目の土曜日は開催される確率が高かったんだ。だから強い雨風の中で開催するくらいなら、初日の金曜日は中止でもいいかな、そう思えたのかもしれない。

果たして土曜は開催された。久しぶりにビールがおいしいフェス日和の開催だ。
絶望からの歓喜だ。

完全に中止にならなかった嬉さと、二年ぶりに見た青空の嬉しさと。
その嬉しさによって、初日の中止は忘れることができた。

もちろん、今思い返せば、初日出演予定だったあれやこれやを観たかった思いはある。
オレ的には初日の方が
観たいアーティストは多かった。17年ぶりに再結成されたバンドのライブも予定されていた。それは今回のライジングの一つの目玉だった。オレも大好きなバンドだったので超楽しみにしていた。中止によって、そのライブは幻と化した。

しかし、二日目土曜日の開催が楽しすぎた。やっぱりビールのうまい晴れた日のフェスは最高だ。ライブを見ている間は、初日中止になったことを忘れたいた。楽しすぎてそんなことを考えてるヒマがなかった。

いつもの半分だったので、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。
とはいえ、この歳でオールナイトは辛い(笑)最後の方は眠くて「早く終わらねーかな」そう思っていた。毎年のことだ。
いやいや、大トリのバンドのライブは最高だったけど、それはまた別の話だ。
rsr2019-3

来年の開催はもう発表された。2020年8月14日(金)・15日(土)の開催だ。
来年こそは、そろそろ、二日間ずっと晴天のもとで楽しんでもいい頃じゃないか?
ライジングサンロックフェスティバル2019公式サイト(外部サイト)


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