それは冬用のビジネスシューズを買ったときの出来事だ。ビジネス用の革靴だ。
北海道をはじめとする雪国の「冬用」は「雪道用」と言い換えられる。だから選ぶ際に重要になるのはソールのグリップ力だ。雪道で滑って転ばないように。
それがビジネスシューズだったとしても、冬用であれば重要なのはやっぱりソールのグリップ力だ。
とはいえビジネスシューズなんだから、滑り止めのための大げさな凸凹とした形状のソールを装備していることは少ない。見た目はあくまでもビジネス用の革靴だ。
だから「これホントに滑らないのか?」と不安になることはめずらしくない。
雪が積もった日、その新しい冬用ビジネスシューズの一歩目にオレの心は踊った。

確かなグリップ力があったからだ。
よかった、これで冬の雪道も安心して歩くことができる。
ギュっギュっとグリップを確かめながら歩を進めるうちに、オレはこんなことを思ったんだ。
「これ、走れるんじゃね?」
そんな必要はないんだ。
これはビジネス用の革靴であって雪上ランニング用のシューズではない。
革靴を履いて走る必要がどこにもない。
しかし、オレは走り出したんだ。
雪上ランニング用のシューズに勝とも劣らないグリップ力に満足しながら、雪道を走った。
冬用のビジネスシューズで。
「マラソン病」と名付けたい。
走らなくていい場面で走ってしまうことを「マラソン病」と名付けたい。
日常のふとしたときにマラソン病は発症する。
例えば地下鉄の駅で階段を上っているとき。
同時に上っている周辺の人の中で一番に上り切りたい。
駆け足になる。だからといって一段飛ばしはしない。あくまでも一段ずつだ。
競争しているとはわからにないように、しかし確実にスピードを上げる。
タタタタタタンっと駆け上がる。
よし、一着だ。
いい年こいてオレは何をやっているんだ。小学生か。
マラソン病だ。
あるいは毎年行っている野外音楽フェスの一場面で。
「場所取り」をしなければならない場面がある。
基本的に野外音楽フェスに「席」は存在しないのだが、その音楽フェスには「レジャーシートゾーン」なるエリアがあって、レジャーシートを敷いてくつろげる場所がある。ライブステージも見えるその場所は人気のエリアで、早い者勝ちで場所取りが繰り広げられる。

朝、会場入り口に場所取りのハイエナどもが列を成す。
会場内を走ると危険なので、運営スタッフが「絶対走らないように」とけん制する。毎年のことだ。
ハイエナどもにその忠告を聞く者はいない。毎年のことだ。
ある者はヒザの屈伸運動を始める。それにつられてある者は足首を回す。
言葉のない闘志がぶつかり合うのがわかる。同じ雰囲気をオレは知っている。
マラソンのスタートラインだ。
負けられない、と思う。
マラソン病だ。
開場時間がせまる。
スタッフは「いいですか、もうすぐ開場しますが危険ですから絶対に走らないように」と念を押す。
しかしその忠告はハイエナどもの耳にはダチョウ倶楽部の「押すなよ、絶対に押すなよ」に変換される。
開場だ。
スタッフ数人が先頭を歩く。ハイエナどもが付いていく。いきなり走り出すやつはいない。周りをけん制し合う。
誰かが早歩きになる。それに釣られてハイエナの集団はスピードを上げる。
ジワリジワリとスピードが上がる。
ついにその時がくる。
一人がスタッフを追い越して走り出した。
レーススタートだ。
オレは笑いが止まらない。競争することが楽しい。
すでに場所取りなんてどうでもよくなってる。レースが楽しい。
あ、だけどこれ、危ない行為なのでやめないとダメですね。やめます。
その情熱をホントのマラソン大会にぶつけろ、って話だよね(笑)
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北海道をはじめとする雪国の「冬用」は「雪道用」と言い換えられる。だから選ぶ際に重要になるのはソールのグリップ力だ。雪道で滑って転ばないように。
それがビジネスシューズだったとしても、冬用であれば重要なのはやっぱりソールのグリップ力だ。
とはいえビジネスシューズなんだから、滑り止めのための大げさな凸凹とした形状のソールを装備していることは少ない。見た目はあくまでもビジネス用の革靴だ。
だから「これホントに滑らないのか?」と不安になることはめずらしくない。
雪が積もった日、その新しい冬用ビジネスシューズの一歩目にオレの心は踊った。

確かなグリップ力があったからだ。
よかった、これで冬の雪道も安心して歩くことができる。
ギュっギュっとグリップを確かめながら歩を進めるうちに、オレはこんなことを思ったんだ。
「これ、走れるんじゃね?」
そんな必要はないんだ。
これはビジネス用の革靴であって雪上ランニング用のシューズではない。
革靴を履いて走る必要がどこにもない。
しかし、オレは走り出したんだ。
雪上ランニング用のシューズに勝とも劣らないグリップ力に満足しながら、雪道を走った。
冬用のビジネスシューズで。
「マラソン病」と名付けたい。
走らなくていい場面で走ってしまうことを「マラソン病」と名付けたい。
日常のふとしたときにマラソン病は発症する。
例えば地下鉄の駅で階段を上っているとき。
同時に上っている周辺の人の中で一番に上り切りたい。
駆け足になる。だからといって一段飛ばしはしない。あくまでも一段ずつだ。
競争しているとはわからにないように、しかし確実にスピードを上げる。
タタタタタタンっと駆け上がる。
よし、一着だ。
いい年こいてオレは何をやっているんだ。小学生か。
マラソン病だ。
あるいは毎年行っている野外音楽フェスの一場面で。
「場所取り」をしなければならない場面がある。
基本的に野外音楽フェスに「席」は存在しないのだが、その音楽フェスには「レジャーシートゾーン」なるエリアがあって、レジャーシートを敷いてくつろげる場所がある。ライブステージも見えるその場所は人気のエリアで、早い者勝ちで場所取りが繰り広げられる。

朝、会場入り口に場所取りのハイエナどもが列を成す。
会場内を走ると危険なので、運営スタッフが「絶対走らないように」とけん制する。毎年のことだ。
ハイエナどもにその忠告を聞く者はいない。毎年のことだ。
ある者はヒザの屈伸運動を始める。それにつられてある者は足首を回す。
言葉のない闘志がぶつかり合うのがわかる。同じ雰囲気をオレは知っている。
マラソンのスタートラインだ。
負けられない、と思う。
マラソン病だ。
開場時間がせまる。
スタッフは「いいですか、もうすぐ開場しますが危険ですから絶対に走らないように」と念を押す。
しかしその忠告はハイエナどもの耳にはダチョウ倶楽部の「押すなよ、絶対に押すなよ」に変換される。
開場だ。
スタッフ数人が先頭を歩く。ハイエナどもが付いていく。いきなり走り出すやつはいない。周りをけん制し合う。
誰かが早歩きになる。それに釣られてハイエナの集団はスピードを上げる。
ジワリジワリとスピードが上がる。
ついにその時がくる。
一人がスタッフを追い越して走り出した。
レーススタートだ。
オレは笑いが止まらない。競争することが楽しい。
すでに場所取りなんてどうでもよくなってる。レースが楽しい。
あ、だけどこれ、危ない行為なのでやめないとダメですね。やめます。
その情熱をホントのマラソン大会にぶつけろ、って話だよね(笑)
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