大晦日の紅白歌合戦。アントニオ猪木の元気ですか!。マイケルジャクソンのムーンウォーク。崎陽軒のシウマイ弁当。
いずれも「〇〇といえば○○」と多くの人に認識されている、代名詞といえるものだ。

じゃあ、荒木のヘッドスライディングをご存知だろうか。

じゃあってこともないが。
誰だよ荒木って。もしかしたら、まずそこに引っかかる人が多いのかもしれない。

荒木。2018年まで中日ドラゴンズ一筋で23年間活躍したプロ野球選手、荒木雅博その人だ。どうなんだろう、どのくらいの知名度なのかな荒木雅博は。
すばらしい成績は残している名選手に違いはないけど、どちらかといえば地味な選手だったからな。プロ野球に興味のない人は知らないかもしれない。

とにかく、中日に荒木という選手がいたんだ。その選手の代名詞がヘッドスライディングだ。ランナーとして進塁するときに、文字通り頭から飛び込んで滑り込む技術だ。

荒木といえば、ヘッドスライディングだ。氷室京介といえばライブハウス武道館へようこそ!、みたいに。

落合は、そのヘッドスライディングを禁止した。

落合博満は2004年から2011年までの8年間、中日ドラゴンズの監督を務めた。
ヘッドスライディングの禁止。落合が決めた方針だ。荒木だけではなく、全ての選手に対してヘッドスライディングを禁止した。

ケガをさせないためにだ。それが落合の考えるプロの野球選手だ。
ケガをしないでシーズンを通して休むことなくレギュラーを務める。それがプロの野球選手だという。
時にチームのことは考えるな、とさえ言う。自分のことだけ考えろ、と。それがプロだ、と。皆がそうすれば、勝ちにつながると。

オレも予てからそう思っていたんだ。
オレは小学4年生から高校3年まで野球をやっていた野球少年だったんだけど、同じことを思っていたんだ。だから、野球にチームワークはいらない、と。
いや、もちろん楽しくやるならチームワークは必要だけど、強いチームをつくるならチームワークは必要ない、と。

野球というスポーツは、プレーの選択肢が少ないスポーツだ。特に守備においては。
どんな状況で、どこに球が飛んできたらこうする、というのが決まっている。悪く言えば頭をあまり使わない、と言えるかもしれない。
あ、ピッチャーとキャッチャーは頭使うよ。打者が打った後のプレーの話ね。

たとえばランナーがいない状態で内野ゴロを取ったら、ファーストに投げるに決まってるんだ。ファーストを守ってるやつが嫌いだからといって、サードに投げるやつはいない。

これがサッカーだったら、もしかしたら、嫌いなやつにパスを出さない、なんてこともあるんじゃないだろうか。
もしくは調子の悪い選手、自分とタイミングが合わない選手の場合も。パスを出す方向は一か所じゃないはずだからだ。

野球にそんな選択肢はない。ほとんどのプレーがシステマチックに決まっている。
攻撃のときは、だからバッティングについては割と選択肢はあるけど、だけど基本、監督やコーチのサインによってその方針は決まる。そして球を撃ったらファーストに向かって走る。それ以外の行動はない。

要するに、誰がやってもやることは一緒なんだ。プレー中に選手同士が会話する必要も基本的にはない。やることは決まっているからだ。
打者は球が来たら打つ。守備は球を取ったらファーストに投げる。それが基本だ。

だから、たとえ仲が悪くたって、上手いやつが9人そろえば強いチームになる。そう思っている。

ただ、学生の部活動ともなると、仲が悪いと普段の練習がうまくいかないかもしれないね。
それでも、たとえ仲が悪くても全員が強い意志で甲子園を目指している、となればきっと強いチームになれると思う。

プロともなればなおさらだ。自分のプレイで年棒(給料)が決まる。そのために自分の役割はベストでこなす。その集合体は強いチームになるに決まっている。落合は中日ドラゴンズをそんなチームに変えていった。

ヘッドスライディングの禁止も、そんな本物のプロになるためのルールだ。ケガなんてしてる場合じゃないんだ。
その他の場面でも落合は非情(に見える)だ。徹底的にプロにこだわる。イチかバチかの大勝負にでることはほぼない。勝つための野球だ。みんな勝つために野球をやっているんだ。時にそれは地味な試合展開になる。面白味がないといえるかもしれない。そんな悪評も聞こえてくる。

そんな中でも、選手たちは落合の方針に翻弄されながらも、理解し実践していく。本物のプロになっていく。
チームとしての結果も残していく。

しかし、だ。

落合が中日を指揮する最後のシーズン。荒木はルールを破ってヘッドスライディングでホームに飛び込むんだ。

2011年9月23日、落合が今シーズン限りで退任する、と発表された翌日の試合で、だ。

首位のヤクルトと2位の中日の試合だ。ヤクルトとの直接対決で負けるわけにはいかない。シーズンも終わりに近い。その勝敗は
中日が優勝できるかどうかを方向付ける。どうしても勝っておきたい試合だ。

同点で迎えた8回裏。荒木はルールを破ってヘッドスライディングでホームに飛び込む。

なぜ荒木はルールを破ってヘッドスライディングをしたのか。
この本を読めば明らかになる。

ちなみに、この2011年9月23日の荒木のヘッドスライディングはYouTubeで見ることができる。もし、この本を読む前にそれを見ても、ただのよくあるヘッドスライディングにしか映らないと思う。ところがどうだ。この本を読んだ後にそれを見たら・・視界がぼやけて・・

そんなわけないだろ、そう思うかもしれない。
人がヘッドスライディングを見て涙を流すはずがないだろう、と。
それはどうかな?(笑)ぜひ試してほしい。とにかくこの本「嫌われた監督」を読んでみてほしい。

激推しです。

プロ野球に詳しくない人でも十分楽しめると思う。
いや、落合博満をまったく知らない、って人はダメかもしれないよ。でも、野球に詳しくなくても、40代以上の人だったら、だから、まだ日常にプロ野球があった時代に日本で生きた人は、落合の名前くらい聞いたことあるよね?特に詳しくなくても「オレ流」くらいは知ってるんじゃないかな。

「オレ流」=自分勝手

落合に対して、そんなイメージ持ってる人も多いと思う。違うんだ。そういうイメージを持った人こそ、読んでほしい。

いや、野球どうのこうのより、読み物として面白いんだよ。
著者の鈴木忠平は、元新聞記者で記者駆け出しのころ中日の担当になったというのが始まりで。とにかく文章がうまい。読ませる。自分視点、落合視点、選手視点を交えながら落合中日の8年間が語られる。

マジでおもしろい。

なんかプロ野球に対する考え方、変わったわ。っていっても、オレ、昔からプロ野球にそんなに興味ないけどね。野球部だったのにだよ!よく言われたもん、野球やってるくせにプロ野球あんまり観ないんだな、って。
あ、まったく興味ないわけじゃないよ、普通のオッサンレベルって感じかな。スポーツニュースでやってたら「へーすごいね」って思う程度の。

だから落合に対しても、好きも嫌いもなくて、ま、どっちかって言ったら好きな方の選手だったけど、それでもね。特に監督時代の落合なんて、全然知らなかったもんな。

そんなオレでも、この本、めちゃくちゃ面白かったから。

荒木以外にも、何人かの選手とのエピソードがあって。どれも泣けるんだ。読みながら思ったもん、なんでオレは落合の本で泣いているんだって。

日本で生きてるオッサンなら(笑)まず楽しめると思う。ぜひ!



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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 1. pen
    • 2021年12月20日 09:30
    • おっさんなので買いました^^ Kindleで。 仕事が一段落したら読みます~
    • 2. シブケン シブケン(管理人)
    • 2021年12月20日 13:01
    • penさん
      いや~マジでおもしろい、っていうか泣きますよ!(笑)
      いろんな選手のプロ意識に感動です!もちろん、それを導いた落合にも。
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