もしかしたら「怪談」にカテゴリされるかもしれない話を聞いてほしい。
先日、オレが実際に体験した話だ。オレと奥さんで体験した。まぁ、そこまでは怖くないんだけど。それを体験した時のオレの心情は
「・・え?」
くらいのものだ。その時は、ね。後からジワジワと恐怖の感情が湧いてきたのだけど。タクシーを降りたオレと奥さん二人は、顔を見合わせしばし沈黙した。その場からタクシーが走り去るまでは口を開いてはいけないような気がして。
降り際にタクシーの運転手が言った一言に恐怖を覚えたんだ。
オレは普段、滅多にタクシーには乗らない。贅沢だと思っているからだ。親の教えの影響だろうか。函館に住んでいた小さいころ、タクシーを利用するのは特別なことだった。たとえば冠婚葬祭に出向くときに利用する、そんな時くらいだ。
デパートに買い物に行った際にタクシーで帰りたいと言っても聞いてもらえなかった。贅沢だよ、と。だったらもう来ないよ、と。バスがあるんだからそれで帰るよ、と。お金がなかっただけかもしれないが(笑)
そして札幌に住むようになってからは、地下鉄なんてものもあって、タクシーのお世話にならなくても移動に困ることはほとんどなくなった。自分の車もあるしね。更にランナーになった日には、距離の感覚がバグるじゃない?(笑)「え?3キロしかねーの?歩いて行くわ」的な。少しでも自分の足で距離を稼がねばと(病気です)
そんなこともあって、オレは普段、滅多にタクシーには乗らない。お金がないだけかもしれないが。
大袈裟に言えば、オレにとってタクシーに乗ることは「非日常だ」
タクシーに乗るたびに、あの空間に、あのニオイにどこか居心地の悪さを感じる。レストランの隣のテーブルに、たぶん昔の知り合いがいるのだがいつまでも気付いてくれない時のような。
2月の強く雪降る寒い夜だった。その日オレは弾き語りライブをやって打ち上げに参加していた。少々酒が進んで(いつものことだ)地下鉄の最終ギリギリの時間になってしまった。走れば間に合わないこともないが・・
雪も降ってるしギターも背負ってるしたまにはタクシーで帰るか、そう思った。だけど都合よくタクシーを拾えるか不安はあった。その日は土曜日で場所はススキノの近くだ。しかもちょうど札幌雪まつりの期間だったんだ。観光客も多い。簡単には拾えないだろう、そう覚悟した。とにかくライブ会場の店を出て奥さんと歩きだしたんだ。
今思えば、そのタクシーは不自然な場所に停まっていた。
「あれ、あのタクシー空車じゃない?」オレは喜んで手を上げてブンブン振った。強く雪が降る中、しっかりと発見してもらうために。こんなにすぐタクシーを拾えるなんてツイてるなオレたち、そんなことを言って。タクシー乗り場でもなんでもないところに、空車表示で一台だけ停まっていたんだ。
オレたちを待っていたかのように・・
タクシーはすぐに手を上げたオレたちのもとに来てくれた。あらかじめ予定されていたかのように。雪も強く降っていたし、オレたちはさっさとそれに乗り込んだ。そのタクシーの中はいつもより「非日常」感が強い気もした。なにか「暗い」感じと言えばいいのか。どうやってもその運転手の顔を思い出せないのだが、だけど「陰気」な感じだったのは憶えている。
60代だろうか。どこにでもいるような男性の運転手だ。少し大柄だったかもしれない。その運転手は「雪すごいですね」くらいは言葉を発したような気もするが、その他道順以外はしゃべらなかったと思う。行先の住所を告げると、タクシーは音もなく発進した。
「ここをこう行ってどこそこの銀行を右折すればいいですか?」
運転手は最短の完璧なコースを提示してきた。「あ、はい。それでお願いします。」これは特に珍しいことじゃない。ススキノ方面からオレの家方面まで告げれば、そのルートをとる運転手は多い。
外は強く雪が降っている。タクシーは雪の中を静かに進む。15分くらいの道のりだったろうか。オレは最後の曲がり角を告げた。「そこのコンビニの手前を左に・・」
何かがおかしかった。
今、オレが最後の曲がり角を告げる前に運転手は左のウインカーを上げなかったか?いやいや、オレは酒に酔っていただけだ。そこまで詳しい住所は最初に告げていない。
もうすぐ家だ。「そこの標識の手前で停めてください」オレがそう告げると、それにかぶせるように運転手は口を開いた。とても低い声だった。一瞬、日本語じゃないように聞こえたが、しかし確かに日本語だった。運転中だから、もちろん前を向いたままで、だ。フロントガラスにその顔が映る。しかし、その顔は見えない。運転手はこう言った。
もうすぐ家だ。「そこの標識の手前で停めてください」オレがそう告げると、それにかぶせるように運転手は口を開いた。とても低い声だった。一瞬、日本語じゃないように聞こえたが、しかし確かに日本語だった。運転中だから、もちろん前を向いたままで、だ。フロントガラスにその顔が映る。しかし、その顔は見えない。運転手はこう言った。
「前にも・・お二人を乗せましたよ」
「・・え?」
タクシーは走り去った。
支払いはスマホでタッチ決済だったので、最後まで運転手はこちらを振り向かなかった。その非日常な空間でタッチ決済のシステムだけが、オレを日常に引き留めてくれた。
これはよくあることなのだろうか。オレはそんなわけないだろ、とは思っている。だって札幌は決して小さな街じゃない。簡単に調べたところ、札幌を走るタクシーの台数は五千台ちょっとらしい。(間違ってたらゴメンなさい)
普段、滅多にタクシーに乗らないオレが、たまたま1/五千台の確率で同じタクシーに乗るだろうか。たぶんそのタクシーごとにある程度テリトリーがあるだろうから、その確率はもうちょっと高いのだろうけど。
過去のライブで、そのライブ会場付近からタクシーに乗ったことはあったと思う。でも、年に1回あるかないかの頻度だよ。それだって、歩きながら流してるタクシーを拾う方式だから。
そもそも、オレの顔憶えてるか?まぁ、顔を憶えてないにしてもその辺から中年の男女二人で乗ってきて、一人がギター背負ってて行き先が同じなら、わかるものなのかな。でも、やっぱりその確率よ。他にもタクシーはビュンビュン走ってるわけだから。
オレを待ってた?
んなわけねーよな。今度また、そこからタクシーに乗ってみたいと思う。
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