のっけから度肝を抜かれた。なにもそんなところまで限界に挑まなくたっていいじゃないか、そう思った。

まずこの本「ウルトラランナー:限界に挑む挑戦者たち(アマゾンリンク)」は海外翻訳もの、だ。著者は自身がランナーでもあるアダーナン・フィン、翻訳は児島修だ。

オレは読書好きだが、翻訳ものを読むのは苦手だ。基本的に翻訳ものは読まない。特に小説は。
なぜなら、難解な日本語に訳す翻訳者は少なくないし(お前がバカなだけだよ、と言われればそれまでだが)なにより登場人物の「名前」が頭に入ってこないからだ。小説を読んでいて登場人物が頭に入ってこないのは、楽しむ上で致命的だ。

最近だと中国発の超ベストセラーSF小説「三体」を読むのにその壁にぶち当たった。欧米とかのカタカナ表記の名前ならまだしも、「三体」は中国人が主な登場人物だ。読み慣れない漢字表記の名前ばかりで全然頭に入ってこない。今まで「中国もの」なんて読んだ経験がない。

どこまで読み進めても、常にこう思うことになった。「で、おまえは誰なんだよ」

だってさ、名前が「葉哲泰」だったり「葉文潔」だったりするんだよ。でもこれはまだテキトーに読める方だ。それが「雷志成」だったり「楊衛寧」になると、テキトーに読むのも難しくなる。さらには「汪淼」だったり「常偉思」だったり。

誰が誰なんだよ。性別なんかも名前からイメージするのは難しい。

で、途中で読むのをやめたんだ。やめたのかよ!だって登場人物がわけわからない上に、三部作とかになってて話が超なげーんだよ。
やめてたんだけど・・最近、Netflixでドラマ化されたでしょ「三体」。それ観たらおもしろくってね。
また読み始めたんだ(笑)

それはいい。まぁ、でも、オレみたいな人も多いのか、翻訳ものには親切にも「登場人物紹介」みたいな説明書きがあるものも少なくない。見た事あるでしょ?ブックカバーの内側だったり、最初のページにある「登場人物紹介」。

フィリップ・ロンバート・・・もと陸軍大尉
エミリー・ブレント・・・・・信仰のあつい老婦人
マカーサー将軍・・・・・・・退役の老将軍

みたいな。
まぁ、だいたい5人から10人くらい紹介されてることが多いかな。オレのイメージでは。でもさ、もう、10人とか名前が並んでたら、読む気失せるよね(笑)オレの場合だけど。あ、もうこれわからねーやつだわ、って。

で、この本「ウルトラランナー:限界に挑む挑戦者たち」なんだけど。
小説ではないんだけど。ノンフィクションものって言えばいいのかな。それでも最初に「登場人物紹介」がある。

ランナーでもある(フルマラソンは3時間を切るタイムを持つ)著者のアダーナン・フィンが「人はどうしてウルトラマラソンという過酷なレースを走るのか」を知るために、自らウルトラマラソン(主にウルトラトレイル)に挑戦していくノンフィクションだ。

いくつかのウルトラトレイルに挑戦して、最終的にはその中でも最大のレース、山岳ウルトラトレイル界のスーパーボウルと呼ぶべき存在のUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)に挑戦するのだが・・

その挑戦の中で、フィンは様々なランナー達と出会うことになる。
その出会った様々なランナー達を中心とした「登場人物」が本の冒頭で紹介されている。そう、小説の「登場人物紹介」のように。

私(アダーナン・フィン)・・著者・作家。本書のためウルトラランニングを始める
エリザベート・バーンズ・・・砂漠ステージレースの女王
キリアン・ジョルネ・・・・・トレイルランナー界のスーパースター

みたいに。

しかしオレは「その人数」に、のっけから度肝を抜かれた。なにもそんなところまで限界に挑まなくたっていいじゃないか、そう思った。何人の登場人物が紹介さていたと思う?20人?30人?

53人だ。

バカなのか(失礼)。ウソだろ?登場人物が53人もいるのか?一学級より人数多いだろ。いきなり読み進めるのがしんどくなる。さらに、だ。様々なレースも紹介されるのだが・・。

その数24レース。

多いよ。わけがわからないよ。
結局オレは本を読み終わるまで、ほとんど何も把握することはできなかった。登場したランナーもレースも。なんなら、著者で、言ってみれば主人公であるフィンですら最後まで名前にピンとこなかった(笑)

でも大丈夫だ。そんなのわからなくても、ウルトラトレイルの「過酷さ」は十分に伝わる。そうなんだ、とても過酷なんだ。この本の中で著者のフィンはいくつかのウルトラトレイルに挑戦するんだけど、そのほとんど全てで苦しむんだ。

その苦しみは尋常じゃない。

たとえば、「著者」のフィンはこの本の中で読者に謝るシーンがある。ウルトラトレイル最大のレース「UTMB」を走っている時に。もうこれ以上走り続けることはできないとリタイアを決めたときに。(その後どうなったかは本を読んでみてね)

フィンは過去に誰かが書いたウルトラマラソンの体験談を読んでがっかりしたことを思い出す。
それを読んだときは「最後まで読者を付き合わせて、その挙句に辛くて完走できませんでした、といって話を終わらせるなんてあまりにひどくないだろうか」と腹が立ったことを思い出す。だから自分は絶対にそんな終わり方はしないと心に誓っていたのに・・

読者に(言ってみればオレに)こう謝る。

けれども、読者のみなさんには申し訳ないが、私は本当に疲れ果てていた。

読者には悪いと思いつつ、私は歩きながら、もうどうにでもなれと思った。誰が気にするというのだろう? これはただの本だ。自分の命のほうがよほど大切だ。ごめんなさい──。

著者が読者に本の中で謝る。尋常じゃない。どれだけ苦しかったのか伝わるだろ?しかし、こんなにも清々しい「ごめんなさい」も珍しい(笑)
とにかくフィンは苦しむ。苦しむシーンしかないと言ってもいいくらいだ。

ところで、この本はどういう人が手に取るのだろう。
まぁ、ウルトラトレイルの経験者は、その苦しみがわかるから
共感できて楽しめる本だとは思う。オレも一応ウルトラトレイルに挑戦してリタイアした経験はあるから(笑)その苦しみは痛い程、そして手に取るようにわかるから楽しめた。楽しめたっていうのもアレだけど。オレもいつも苦しんでいるからさ。

もし、もしも、アナタがこれからウルトラトレイルに挑戦しようとしているのだったら、この本は読まない方がいいかもしれない。なんせ苦しむシーンばかりだ。死ぬほど。それがウルトラトレイルだろ、と言えばそうなのかもしれないけど。

いや、勉強になることも多いよ。苦しい時に自分を鼓舞するために憶えておきたい言葉もいくつかあった。
「余計なことを考えず目の前の瞬間に集中しろ」とか「自分の強さに目を向けろ」とか。苦しくなると、ついつい自分の弱さばかりに目がいっちゃうじゃない?そんな時、いや、オレは強いんだ、と。これに挑戦してるオレはすごいんだ、と。オレなら行けるはずだ、と。そう自分を鼓舞することは大切だ。自分の強さに目を向けて。

でもなぁ、とにかく苦しむんだよフィンは。ロードではサブ3ランナーという実力を持ちながら。ウルトラトレイルは別物なんだね。苦しさのあまり頭がおかしくなって(表現大丈夫だっけ?)何回も幻覚を見る。山の中に電話ボックスとか見えちゃったりするから。しかもとてもリアルに。

でも逆にそういうの読むと、自分も挑戦してみたい!とか思う人もいるのかな。
そもそもウルトラトライルに興味持つ時点で普通の人じゃないんだし(笑)じゃあ、読め読め。

最後にオレが一番好きだったシーンを聞いてほしい。

フィンはあるウルトラレースで苦労しながらも見事にゴールする。順位も10位と悪くなかった。その余韻に浸りながらフライドポテトを買って車に乗り込み駐車場から出る。
すると、まだゴールしていないランナーが走って来るのが見えた。もう誰もそのランナーに声援を送っていない。ゴールまではまだ7マイル(11キロ)もある。

フィンは「頑張れ!」と車の窓から叫ぶ。「君ならできる!」と続けて。そのランナーはフィンの疲れた表情や首に巻いたメダルなどから、同じレースを走り終えて帰途に就こうとしていることがわかる。そのランナーは声援を送ったフィンに微笑みながらこう言った。

「この野郎」


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コメント

 コメント一覧 (4)

    • 1. ひろ
    • 2024年05月30日 12:12
    • 5 私もいずれ100マイルに挑戦したみたいので気になります。明日からアマゾンセールだし、買ってしまおうかな。。。

      限界になる前に翌日の仕事を言い訳にやめてしまう、手を抜いてしまうことが多いので、強い気持ちを持たなきゃダメですねー
    • 2. シブケン シブケン(管理人)
    • 2024年05月30日 13:36
    • ひろさん
      100マイルに挑戦!だったらこれは必読ですね。どれだけ苦しむのか先に知ることができます(笑)
      いやでも、翌日の仕事だってなんだって言い訳くらいしたっていいじゃないですか!
      こっちだって精いっぱいがんばってるんだっつーの(笑)
      なんか最近みんな厳し過ぎますよね・・
    • 3. sakana2053
    • 2024年06月02日 17:26
    • 5 こんばんわ
      今年はサロマ湖100kmマラソンに出ようと思っていたら、エントリー期間間違がえて終わってました。
      なので、一人で勝手に100km走ってきます〜
    • 4. シブケン シブケン(管理人)
    • 2024年06月03日 13:23
    • sakana2053さん
      なにやってんすか!(笑)
      今年は定員埋まらずにずっとエントリー受け付けてたような・・
      で、一人100kmって。私には無理だな。お気をつけて~
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