ランナーのバイブル「BORN TO RUN」にこんな一節がある。
「人は老いるから走れなくなるのではない。走るのをやめるから老いるんだ。」
オレもそうだが、もう若くはない・・多くのランナーにとって、耳が痛い格言だ。しかしこれは、ランナーのみに訴えかけているわけじゃないと思うんだ。もっと大きな意味を持っているというか。
たとえば「老い」を「死」に、「走る」を「動く」に置き換えてもいいんじゃないか。
人間は、いや、動物はもうすぐ死ぬから動けなくなるのか。それとも、動くことをやめるから死ぬのか。そんな問いにも聞こえてくる。
分かりづらいなら「動く」を「食べる」に置き換えてもいい。生きるということは食べることだからだ。
何回置き換えるんだよ。
毎朝すれ違う老人と犬がいる。
じいさんが犬の散歩をしているんだ。じいさんの見た目は、そうだな、ちびまる子ちゃんのおじいちゃん、友蔵をイメージしてほしい。細身で猫背だ。作業着のようなものを着ていることが多い。だけど、ほのぼのとした雰囲気はない。友蔵に「邪悪さ」を3滴ほど垂らした感じか。
たとえばいつも「くわえタバコ」をしている。もちろん、携帯灰皿なんて持っていない。ってのはオレの想像だが(笑)でも、少なくともオレは携帯灰皿に灰を落とすシーンを見たことはない。灰は口元から重力に従って落ちるだけだ。そんな邪悪さがある。
連れてる犬は・・死にそうだ。
柴犬だ。かなりの老犬とみた。全体的に色が薄い。色が薄いってなんだよ、と思うかもしれないが、とにかく全体的に色が薄い。見るからに弱っている。四肢に力がなく、ヨタヨタ歩く。ヨタヨタ歩いて、すぐに立ち止まる。それの繰り返しだ。
じいさんは犬が立ち止まることを許さないからだ。
犬が立ち止まると、じいさんは犬の尻を脚でグッグと前に押しやる。見ようによっては、犬を蹴とばしているように見えなくもない。事実、オレが初めてその光景を見た時は「虐待か?」と一瞬思った。しかし、思ったのは一瞬だ。犬は特に嫌がっている様子もなかったからだ。「わかったっつーの」そんな顔をして、またヨタヨタと歩き出す。
いいコンビだ。
たまに公園のベンチに「二人で」座っている。犬をベンチに上げるのはルール違反かもしれないが、まぁ、邪悪なじいさんだ。そんなこと気にしていないだろう。
きっと、じいさんが犬を脚でグッグと押しているのは、愛情なんじゃないか。昭和に生まれた「がさつで邪悪な」じいさんの愛情だ。「おまえ動けなくなったら死ぬぞ」っていう愛情だ。
動物はもうすぐ死ぬから動けなくなるのか。それとも、動くことをやめるから死ぬのか。
そういえば数年前、オレの実家で飼っていた犬が死んだ時も、最後は全然動かなくなってたもんな。あの時、無理にでも脚でグッグと押して「動かして」散歩していたら、もうちょっと延命したのだろうか。
ところで、オレが初めてそのじいさんと犬を見て「虐待か?」と思ってから、かれこれ3年は経っている。いや、もしかしたら5年くらい経っているかもしれない。「もうあの犬死ぬな」と思ってからもしかしたら5年だ。じいさんのおかげで犬はだいぶ延命していると思う。
それでもやっぱり、日に日に犬の色は薄くなっている。毛もだいぶ抜けてきている。どう見ても死にそうだ。それでも毎日、じいさんに脚でグッグと押されて散歩している。
きっと、今これを読んで想像している5倍くらいは強い力で押されている。やっぱり「蹴っている」という表現の方が合っているかもしれない強い力だ。リードで首輪をグッグと引っ張られている時もある。
もちろんじいさんは、いつだってくわえタバコだ。意外にも犬のフンの処理は最低限だがしている。なんかの厚紙の切れっ端で拾って、シワシワのレジ袋に入れて持ち歩く。
毎朝コンビで散歩している。
たまに何日か見ないことがあると「死んだか・・」と思うんだけど、またすれ違う。「生きてたか!」ってなる。
そんなコンビを見てオレが思うのは、じいさんの方が先に死んだら嫌だな、とかそんなことだ。
Follow @shibu_ken
スポンサーリンク
コメント
コメント一覧 (6)
じいさんと犬は、シブケンのことをどう見てるんでしょうね。そっちの視点も楽しそうです。
犬は、いいですね。
うちにも犬がいて、歳を取ったら、2人でベンチで日向ぼっこしたり、ヨチヨチ散歩したりするのが夢だったのですが、待っていてはくれませんでした。
その邪悪なおじいさんも、犬は散歩が好きなものだ、と思い込んでいるのかもしれないですね。
老犬に幸あれ。
あっ、シブケンさんの言いたいこととは、ズレたコメントになってしまいましたね。
どうなんでしょう、「こっち見んな」とか思ってますかね(笑)
コメントありがとうございます。
いえいえ、そんなに強く言いたいことがあったわけでもないので(笑)好きに読んでください。
いや別に今までもマラソン以外のことも書いてるでしょ。
何の話なんだって言われてもわからないけど(笑)