大谷翔平は言った。「憧れるのをやめましょう」と。
確かに、誰かを超えるためには憧れている場合じゃない。もっと「上」を目指さなければならないのだから。しかし、人生、何者にもなれないまま50歳も過ぎてくると、言われなくても誰かに憧れるなんてことはなくなる。悪い意味で。
ミュージシャンの誰それみたいになりたい、とか。ハリウッドで成功してレッドカーペットを歩きたい、とか。メジャーリーガーになって50-50を達成したい、とか。
向上心がないダメなやつだな、そう言われてしまえば返す言葉もない。しかし、身の程を知る、ということも幸せな人生を送るための一つの方法だと思う。
先日、そんなオレの目の前に憧れの人が現れたんだ。パっと見は冴えないオッサンだったのだが・・
とある居酒屋での出来事だ。
その日オレはアコースティックな弾き語りライブに出演する予定があって。そのリハーサルを終えて、一緒に演奏するメンバーと飲みに行ったんだ。
まてまて、本番前に飲むってか?そうお思いの方もいるかもしれない。すまん、飲むんだ。いわゆるゼロ次会だ。この本番前のビールが美味いんだよ!(笑)「よし、この後本番だな。乾杯!」のビール。
はっきり言って、本番後の打ち上げのビールより美味い。このリハ終わり本番前のゼロ次会ビールのためにライブ活動をしている、と言っても過言ではない。
しかし・・この行動は「老害」と呼ばれる可能性があるので気を付けたい。
酒を飲んでライブ、これはすっかり時代遅れな行動になった。と思う。
若い人たちは全然飲まない。割とマジメに真摯に音楽活動をしている人が多い。ように見える。音楽活動の場はだいぶクリーンになったと思う。悪ぶるのはオッサンばっかだ(笑)
一昔前は、特にロックバンドなんかはビールを飲みながらライブ、は当たり前だった。あ、アマチュアバンド界隈の話ね。プロもまぁ、フェスなんかでは当たり前の時代もあったかな。ステージ上でビール飲んだりタバコ吸ったり。
その流れで、ちょいと一杯やりながらライブ演奏するオッサンは多い。それはそれでみんなが楽しければいいんだけど・・どうだろね。
まぁ、場所にもよるよ。がっちりステージがあって演者とお客さんが向かい合って、って場所なら、ある程度マジメに演奏した方がいいかもしれない。アマチュアだってステージに立つ以上は。
だけど、なんかライブバーみたいなところで、演者もお客さんもごっちゃになって飲みながら音楽を楽しむ、って場所も最近は多い。そんな場所だったら多少は、ね。
オレは飲みながら演奏、ってことはしない。
別にステージ上は神聖な場所だ、とかって思いからではない(思えよ)。過去に一度、ライブ中に自分のギターアンプの上でビールのカップを倒してしまって・・アンプ修理に数万円、なんて悲惨なことがあったんだ。それ以来、本番中はステージ上に水分を持ち込まないようにしている。キチっと蓋の閉まるペットボトルの水以外は。
けど、本番前にゼロ次会はする。ちょっぴり酔っ払って緊張から逃げる、って意味もなくはない。
そんなゼロ次会での出来事だ。ここまで読んでいただいて大変申し訳ないが、ライブの話はまったく関係ない。居酒屋で飲んでいた時の話だ。人気のお店だ。その日も多くのお客さんで店内は騒がしい。
となりのテーブルに冴えない(自分のことは棚に上げるが)オッサン二人組が座ったんだ。二人とも、年の頃40代から50代といったところか。
その冴えないオッサンの一人が、このあとオレの憧れの人になるとは夢にも思わなかった。
冴えない二人組のテーブルに店員さんがやってきた。トレーにビールをのせて。乾杯のビールだ。店員さんがビールをつかもうとしたその時、なにかの拍子にトレーの上でグラスを倒してしまったんだ。ガコン、バシャ~。グラスが倒れてビールをぶちまける音が店内に響いた。
騒がしかった店内は一瞬静かになった。
冴えないオッサンが頭からビールを被ってしまったんだ。顔の右半分にビールが滴り、ベージュ色のチノパンも右脚が黒く変色している。
大惨事だ。お客さんが頭からビールを被るのもなかなか見ない大惨事だ。そりゃあ店内も静かになる。もちろん店員さんは平謝りだ。
さぁ、あなたならどうする?
「バカ野郎!」と怒鳴るか。「店長呼べ!」と叫ぶか。多くの人は「うわっ!ちょっと!」とおどけて見せるくらいだろうか。
その冴えないオッサンは・・特に大きなリアクションを取るでもなく。怒るでもなく。顔に滴るビールを拭くでもなく。ボソっとこう言ったんだ。
その冴えないオッサンは・・特に大きなリアクションを取るでもなく。怒るでもなく。顔に滴るビールを拭くでもなく。ボソっとこう言ったんだ。
「俺、なんか優勝した?」
冴えないオッサンがヒーローになった瞬間だ。
隣にいたオレはそれを聞いて爆笑した。そしてこんなオッサンになりたいと思った。憧れた。ここで怒るのは論外として、笑いを起こすその機転、ユーモアに憧れる。
冴えないオッサンのビールかけは大谷翔平のシャンパンファイトよりも輝いて見えた。確かに冴えないオッサンは優勝したと思った。
そのあと店長がすぐに飛んできて。「クリーニング代お支払いするので請求してください」と言ったが「いや、別にいいです」と固辞していた。そこも憧れる。あとから(たぶん)サービスでデカめの刺し盛りが運ばれてきたのを見て、いい店だなと思った。いやいや、いい店か?
って話を、その後のライブ本番でもMCで使わせてもらいました(笑)
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コメント
コメント一覧 (14)
シブケンさんのライブを見に行くにはどうしたらいいですか?どこかにライブ告知でもあればいいのですがうまく見つけることができません。
四国在住なんで滅多なことがないと行けないのですが、滅多なことがあれば見に行きたいな。
きっと普段からおもしろい人なんでしょうね~
コメントありがとうございます!
コッソリひっそり・・このブログの正しい読み方です(笑)
ところで四国在住ですか!それはなかなか難しいですね、札幌以外でライブをやることはないですし。
もし、滅多なことがあって札幌に来る、なんてことがあったらコメントください。その時にライブがあったらお知らせしますので。そうなるのは奇跡のような確率になると思いますが(笑)
なんの特技もない私からしたら、ライブやってるだけで既に何者でもなくはないと思ってしまいます。
それにしても、ビールかけられた方、なかなか凄い機転の人だなと。確かに憧れる。
大谷になることはできなくても、少しの気づきとか気遣いとか機転で憧れの存在になることはできるのですね。
なんか、日頃しょうもないことで腹を立てる自分を省みると、その一言が出せるには、やっぱり大変な人生経験があったのかなと。
やっぱり、憧れの存在になるのは簡単ではなさそうですね。
今回のおっさん、カッコイイですね。こんな対応取れるおっさんになりたいもんです。
いえいえ、レベルの高い演奏しているわけでもないので!
日頃しょうもないことで腹を立てる・・ありますあります。
コンビニでいちいち「レジ袋」いるかいらないか聞かれるのめんどくせーな、とか。私もそんな小さい男です(笑)
コメントありがとうございます!
シリアスな場面でも笑い取れる人ってかっこいいですよね~
笑顔で仕事行けます。
うれしいコメントをもらって
私も笑顔で仕事できます!ありがとうございます。
何事にも心構えと準備は大切ですよね。
いや別に今までもマラソン以外のことも書いてるでしょ。
何の話なんだって言われてもわからないけど(笑)